り、フラリと外へ出た直後のことだった。それから橋を渡り、暗い公園を脱け、この山下町《やましたちょう》に入《い》りこんで来ても、この執念深《しゅうねんぶか》い尾行者たちは一向退散の模様がないのである。
 腕の夜光時計《やこうどけい》を見ると、問題の十一時にもう間もない。十五分前ではないか!
 ぐずぐずしていると、折角《せっかく》の大事な用事に間に合わなくなってしまう。十一時になるまでに、こいつら二人を撒《ま》けるだろうか。これが銀座なら、どんな抜け道だって知っているが、横浜《はま》と来ると、子供時代住んでいた時とすっかり勝手が違っていた。大震災《だいしんさい》で建物の形が変り、妙なところに真暗な広々した空地がポッカリ明《あ》いていたりなどして、全く勝手が違う。この形勢では尾行者たちに勝利が行ってしまいそうだ。残るは、これからすこし行ったところに、さらに暗い海岸通があるが、その辺の闇を利用して、なんとか脱走することである。
 そんなことを考え考え前進してゆくうちに、向うに町角《まちかど》が見えた。私は大きな息を下腹一ぱいに吸いこむと、脱走は今であるとばかり、クルリと町角を曲った。そして一目
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