る時計台から、ボーン、ボーンと十一時を知らせる寝ぼけたような音が響いて来た。――ああ十一時。あの時刻だ。私はドーンと胸を衝《つ》かれたような激動《げきどう》を感じた。
金貨《きんか》を握《にぎ》った屍体《したい》
「うむ、事件だぞ」
「すぐ其処《そこ》だ。行くか……」
二人の刑事は顔を衝突せんばかりに近づけて、お互《たが》いの腕を掴《つか》み合った。
「直《す》ぐ行こう」
「だが此奴《こいつ》をどうする?」
「うむ。さあ、どうする?」
刑事は私の処置《しょち》をどうしたものかと躊《ためら》った。
「逃げませんよ、私ア」と言下《げんか》に応《こた》えた。「一緒に行ったげましょう」
「お前も行くか。どうかそうして呉れ!」
刑事はホッと溜息《ためいき》をついた。
私はわざと先頭《せんとう》になって駈けだした。刑事も横合《よこあい》から泳ぐように力走した。
真暗な、広い空地に出た。向うにポツンと二階建らしい倉庫のようなものが立っているが、灯《あかり》もない真黒な建物だ。悲鳴はそのあたりから起ったように思われる。私は前面を注視しながら走った。
沈黙の倉庫の前まで来ると、向うに火の消えた街灯《がいとう》の柱が何事か云いたげに立っていた。その下に、長々と横たわっている黒い物があった。
「旦那方。あすこに、一件らしいのが見えますぜ」
刑事は私の方に身体を擦《す》りよせてきた。
「うん。伸びているようだナ。それッ」
三人はバラバラと、その方に近づいた。刑事の手から、懐中電灯の光がパッと流れだした。その光は直《ただ》ちに、地上に伏している怪しい男の姿を捉《とら》えた。雨あがりの軟泥《なんでい》の路面に、青白い右腕がニューッと伸びていて、一面に黒い泥がなすりついている――と思ったら、それは真赤な血痕《けっこん》だった。水色のアルパカの上衣にも、喞筒《ポンプ》で注《そそ》ぎかけたような血の跡が……。全くむごたらしい光景だった。
刑事は、倒れている若い男の横顔を照してみた。顔は血の気を失って、只《ただ》太い眉毛《まゆげ》と、長い鼻とが残っていた。歯を剥《む》き出した唇は、泥を噛んでいた。――と、刑事が叫んだ。
「呀《あ》ッ。……これア、赤ブイの仙太じゃないか!」
赤ブイの仙太! 仙太といえば刑事たちが、さっき私に訊《き》いたところの横浜《はま》の不良で、カン
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