しゃ》るのですかい、はッはッはッ。……まア、それはいいとして、旦那方。私は犯人の居処《いどころ》を知っていますよ」
「ナニ、犯人の居処? 犯人は誰だッ」
「犯人は誰だか知らない。だが犯人の居処だけは知っているのですよ……ホラ、ここに真暗な崩《くず》れ懸《かか》ったような倉庫がありますネ。犯人はこの中に居るのですよ」
「何故だ。どうして此の中へ逃げこんだというのだ」
「喋《しゃべ》っていると、犯人が逃げだしますよ」
「しかしわれわれは、意味もないのに動けないよ」
「じゃ簡単に云いましょう。いま仙太のポケットから出た五枚の金貨ですがネ、あの金貨には泥がついていたのをご存知ですか」
「……」
「もう一つは、そこに錆《さ》びた五寸釘《ごすんくぎ》を立てて置きましたが、路面に垂直に、小さい孔《あな》が明《あ》いていますよ」
 刑事たちは、目をパチクリさせて地面に踞《しゃが》むと、その錆びた釘を退けて、太い箸《はし》をつっこんだ程の縦穴《たてあな》を覗《のぞ》きこんだ。
「これは?」
「ピストルの弾丸《たま》が入っているのですよ。今掘りだしてみましょう」
 私は釘の先で、穴をどんどん掘った。すると案《あん》の定《じょう》下からニッケル色の弾丸《たま》がコロリと出て来た。
「ほほう、なるほど」刑事は駭《おどろ》きの声を放った。「これは何故だ」
「いいですか、上を向いちゃ、犯人が気付きますよ。下を向いていて下さい。犯人は倉庫の二階の窓から仙太を撃ったのです」
「そりゃ変だ。仙太は背後《うしろ》から撃たれている」
「いいえ、傷はあれでいいのです。仙太のポケットに入っていた金貨は泥がついていたでしょう。仙太の野郎は、あの金貨を皆、この路面から拾ったのです。だから泥がついているんです。金貨は、同じ倉庫の二階から犯人が投げたのです。仙太がそれを拾おうと思って、地面に匍《は》わんばかりに踞んだのです。いいですか。そこを犯人は待っていたのです。丁度われわれが今こうしている此の恰好《かっこう》のところを、上からトントンと撃ったのですよ」
「ナニ、この恰好のところを……」
 上から撃たれたと聞いて、二人の刑事は、身の危険を感じてパッと左右に飛び退いた。
「そんなに騒いじゃ、犯人に気付かれますよ」と私は追縋《おいすが》って云った。
「さア早く、この建物の出口を固めるのです」
「よオし。おれは飛びこむ
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