のところへ駈けよろうとしたが、そのとき帆村が、
『おい待て、電話機に手をかけるな』
『ええっ、なぜ――』
『俺の後についてこい。説明はあとでするから――』
 というなり帆村は、椅子から立ちあがった。彼の手はその椅子を頭より高く持ちあげた。そしてつかつかと裏口の窓へ近づくと、持っていた椅子をはっしと窓にぶちつけた。
 がらがらがらと硝子《ガラス》は壊れる。
『はやく俺につづけ』
 と、帆村はその壊れたガラス窓から暗い外に飛だした。
 僕はぎょっとした。そして無我夢中に彼につづいて窓からとびだした。全身の毛が一時にぶるぶると慓えたように感じた。帆村は脱兎のように走る。僕もうしろから走った。
 百雷《ひゃくらい》の落ちるような大音響を聞いたのは、それからものの五分と経たぬ後だった。ふりかえってみると、さっきいた事務所はあとかたもなくなって、あとには焔々《えんえん》と火が燃えているばかりであった。
『ああ愕《おどろ》いた』
 と帆村がいった。
『君が電話へ出てみろ。その瞬間に、あの大爆発が起ったんだ。敵は君がいることを、電話でたしかめようとしていたんだからね。いや全く生命びろいだった』
 とい
前へ 次へ
全10ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング