計狂の一党に、僕が臨時参加をしたのが、そもそも悪魔に身を売るキッカケだった。友江田先生の統計趣味は、たとえば銀座の舗道《ほどう》の上に立って、一時間のうちに自分の前をすぎるギンブラ連中の服装を記録し、こいつを分類してギンブラ人種の性質を摘出《てきしゅつ》し大胆な結論を下すことにある。午後五時の銀座にはサラリーメンが八十パーセントを占めるが、午後二時には反対にサラリーメンは十パーセントでその奥さんと見られる女性が六十パーセントもぞろぞろ歩いているなどと言う面白い現象を指摘している。これは昨年度には病気で死んだ人が何千万人あって其の内訳《うちわけ》はどうだとか言う紙面の上の統計の様に乾枯《ひか》らびたものではなく、ピチピチ生きている人間を捉《とら》えてやる仕事でその観察点も現代人の心臓を突き刺すほどの鋭さがあるところに、わが友江田先生の統計趣味の誇りがあるといってよい。
 で、僕は「省電《しょうでん》各駅下車の乗客分類」という可《か》なり大規模《だいきぼ》の統計が行われるとき、人手《ひとで》が足らぬから是非《ぜひ》に出てほしいということで、とうとう参加する承諾を先生に通じてしまった。やがて
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