町でこの半年あまり毎日のように彼女の白い脛を追い廻している僕に気がついていないのであろうかどうかを何時までも気にしていた。
 翌日から僕は新しい希望と新しい焦燥《しょうそう》とを持って、自分の研究室へつめかけた。だが、落付いた気持で研究室に坐っていることは出来なかった。幸い、早く研究題目を所長の芳川博士へ報告する必要があったので、その調査に名を借りて、しばしば図書室へ通った。その室《へや》には廊下から入れる戸口があったにも拘《かかわ》らず、知らぬ顔をして研究事務室の扉《ドア》を先ず押して入り、それから又も一つの扉を押して隣りの図書室へ入った。事務室の扉を開くと、佐和山女史はピリッとも身体を動かさなかったが、京町ミチ子だけはハッとしたように、私の方へ顔をあげ、それからニッコリと笑ってみせるのであった。そのたびに私は身体を硬くして、強《し》いて笑顔を作るのに骨を折った。
 図書室へ入った僕は、大抵《たいてい》、螺旋階段をのぼりきって、三階の書棚の前に立ち、並んでいる雑誌の表題や年号を幾度となくよみかえしたり、その書棚の或る一つに雑然と積みかさねられてある雑部門の珍書などを手にとってみていた
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