りょう》することが感ぜられ、それとともに、あの若き婦人の肢体《したい》が網膜《もうまく》の奥に灼《や》きつけられたようにいつまでも消えなかった。


     2


 翌年の春、僕は大学を卒業した。卒業に先立って僕達理科|得業生《とくぎょうせい》中の大先輩である芳川厳太郎《よしかわげんたろう》博士が所長をしている国立科学研究所から来ないかということであったから、友江田先生の意見を叩いてみた。友江田先生は大学に籍がありながら、同時に研究所にも席がある特別研究員だったから研究所の様子はよく知っている筈《はず》だった。
「……いいでしょう。君さえよいと思うのならね」と先生はしばらく間《あいだ》を置いて同意して呉《く》れた。僕は先生が二つ返事で賛成して呉れなかったのを不服に思った。それは勿論、先生の慎重なる一面を物語るものであったと同時に、「信濃町」事件(というほどのことではないかも知れないが)に於《お》ける先生の不審な態度も思い合《あわ》すことを止《や》めるわけには行かなかった。
 四月になると、僕は研究助手として、はじめて国立科学研究所の門をくぐった。この国研は(国立科学研究所を国研と略
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