て、忘れかねた。
八時過ぎたとき、誰かがもう失礼しないと都電がおしまいになるのではないかといった。まだ八時過ぎたばかりで、都電の赤電[#終電の別称]がある筈はあるまいと思っていると、岡東が時計を見て、ああ、そろそろ急がなくては……という。本当かいと聞けば、この頃の都電は八時半頃で終車となる由。これには驚いた。先ごろ玉川線が十時半終車になったので、甚だ早すぎると思ったが、都電が八時半位で赤電になるなら、玉川線はまだましの方だ。
客三人と岡東父子との五名で、仙台坂を二の橋の方ヘ下りて行く。
坂上の交番は先日廃止になったばかりだったが、おまわりさんが三人も入って勤務している。こわふしぎと聞けば、岡東の話に、先々月二十五日にこの附近一帯が焼けてしまってからは、お巡りさんの交番も数がうんとすくなくなったらしく、再びここが開かれたのだという。
仙台坂を少し下って行くと、右側に米内海軍大臣の仮寓《かぐう》があった。米内さんの家は原宿だったが焼け、それ以来ここに来て居られる由。
そこを過ぎるともう焼野原。月もまだ出ぬ暗闇ながら、ひろびろと焼野原がつづいているのがわかる。
坂の途中に、電灯を
前へ
次へ
全172ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング