自失してはいけない。
◯火事になりそうなものを早く消し、道路上のものは放っておくがよい。
◯漏光があったのを、敵が投弾目標にしたことは明白。
◯手を負傷した者まで担架で運ぶのはどうかと思う。
◯カンフルばかり医師はうつ。
◯焼夷弾の座金に直撃されて負傷した者が続出した。自分は幸いに助かった。(コンクリート塀のうしろにかくれた為、あとで考えるとこれがよかった)
◯墓地だけに八十発おちていた。
◯焼夷弾のカゴの大座金は、厚さ二センチ位の大きい丸盆の大きさ。二階から屋根をぬいて階下におち、あるいは平屋《ひらや》の屋根を通って床下にまで落ちる力があるという。
◯火がピラピラ見えているうちに、実弾の方はすでに下に落ち、ぱあっと発火する。
◯時限装置らしきものも落ちていた。
※
◯昨夜吉岡専造[#朝日新聞社カメラマン。一九四二(昭和十七)年に海野が海軍報道班員として従軍した際、共にラバウルに]君が来てくれ快談中、第二の珍客山田誠君が来宅。その山田君の家は玉川|等々力《とどろき》。この前の投弾のとき、山田君の隣組だけは投弾なく、周囲の全隣組に落下した由。
◯二軒建の家の一方では八発の焼夷弾と戦い、やっと消したと思うと、隣りの家に落ちたものが燃えさかり、戸棚よりぷうっと火をふき出して燃えてしまったという。
隣家では細君と子供が、押入内に入っていて落弾に注意を払わなかった由。
◯毎夜八十戸だ、二百戸だと焼ける。
◯中島工場は356、宮城は57の地図を、敵が用意している。
◯昨一月三日の名古屋の空襲に、市内はかなり焼けた由。敵はいよいよ本性をあらわし、焼払い投弾の挙に出てきたと伝えられるが、果してそうか。
◯雑司ケ谷の場合、家人が電灯をつけはなしで風呂へ行ったため、警報が出ても消す人がなく、戸口には錠が下りている。これが目標になったという。
一月五日
◯名古屋を去る三日に爆撃した敵機は、わが空軍に行手をさえぎられた結果、目標へ直進できず、そのため爆弾と焼夷弾を市街に投下し、二千戸を焼いたという。
◯B29の爆音が放送されたが、実物とちがう事甚だしく、参考にするには骨が折れる。
一月八日
◯去ル五日ニ気ガ附イタコトデアルガ、イツノ間ニカ左眼ガワルクナッテイルノダ。黒点ガ見エ、強イ光デ網膜ガヤケタトキノ感ジガアリ、且ツチラチラト電線ノ雑音ミタイナモノガ盛ンニ動クノデアル。
ソウイエバ昨年ノ暮空襲デクライ外ヘ出タトキ、左ノ眼ガイヤニ暗イ感ジガシタシ、マタ室ニイテモ変デ、左ノマツ毛に目ヤニデモツイテイルノデハナイカト気ニシタ事ガアッタガ、ソノコロカラ悪カッタラシイ。厄介ナコトデアル。併シ目ハワルクトモ戦ウゾ。
◯敵機は、昨日はとうとう来なかった。一昨日もその前も、午後九時頃に来て、次は暁の五時過ぎに来た。前のように午前一、二時頃にこなくなった。これでこの頃、だいぶ身体が楽をしている。
一月九日
◯「読売報知」へ投稿の「軍情報と数字」がきょう掲載された。
◯敵機は昨夜も来なかった。どうしたのだろうか。こっちはよく寝られてよかったが、敵の様子が気にかかる。
◯午後一時四十分、警戒警報発令。久し振りに昼間の空襲となる。
四編隊のほかに一又は二機の別動隊がある。そのうちに後続の数機は中部軍管区へ入る。情報が出て間もなくプーと鳴って、空襲警報解除となる。「あれ、もう解除か。あっさりした空襲だな」と壕を出る。ようやくこんな気持のところまで来た。空襲始まりのあの頃とはたいした変りようだ。
◯東北東の空中に、敵機群から白いものが落ちはじめた。敵機の燃料タンクか、味方の戦闘機かとひやひやする。わからず、そのうちに見ている双眼鏡の中に一機もえて真紅になっておちるのがある。前見た戦闘機かとひやっとしたが、かなり形が大きいので、敵機とも見えた。どうぞ敵機であるようにと祈る。
◯後刻、陽子[#次女]が学校(山脇高女)より帰って来て、真赤になって敵機が落ちた事、それが途中で空中分解してばらばらになった事を話す。私が「本当にあれは敵機か」と真剣に訊けば、陽子「だってずいぶん大きい飛行機だったんですもの」「そうか、よし、よし」と、私は大機嫌であった。
◯眼疾あるために、空を見れば一面に水玉があらわれ、また視力も落ちていて(おまけにややミストあり)今日ははっきり味方機の活動を見る事が出来なくて残念だった。
◯昌彦[#三男、病臥中]に初めて敵機(二機)を見せる。よろこんでおった。
◯この日敵機が関東北部へ向かったというので、さては小泉、太田の中島飛行機工場へ行ったかと舌打ちしたが、そのうちに敵機隊は南下を開始した。爆弾は関東北部で落として来たのか、それとも帝都へ落としたのか、詳《つまびら》かならず。
◯防空に立つと小便がちかい。冷えてぼうこうカタルを起こしつつあ
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