聞として復活の由にて、連載物語を書いてほしいとの事。この新聞は雑誌的新聞にて、東京の夕刊新聞全部を食ってしまおうという計画のよし。
三枚半一回にて六十回位。とにかく引受ける。「超人来る」を書かんと思う。
◯偕成社の矢沢氏来宅。「まだらの紐」の小見出をまだつけてないので気の毒をする。
◯元青葉の十一分隊長池田忠正氏より手紙が届く。氏は目下鉱山事務所にて働いていられる。
八月二十七日
◯徹郎、朝子、育郎の三名、広島へ出立す。同宿の中川夫人と芳子ちゃんもいっしょなり。
英も私も育郎坊やを放すこと別れる事が甚だつらいのだが、どうにもならぬ。坊やは、七月三日より本日まで約五十余日滞留し、その間にかなり身体は伸び体重は殖え、下歯二本生え、えんこが出来るようになり、人の顔が十分覚えられるようになり、いい顔が出来るようになりしなり。
広島には、カゴシマより上り居らるるカゴシマのおじいさん在り、さぞよろこばるる事ならむ。この上は、広島にて新しき職業がうまく道にのらんことを祈るのみ。
九月十日
◯朝顔を見るのがたのしみ。きょうはくれない[#「くれない」に傍点]とるり[#「るり」に傍点]との二つ。
◯長野新聞の上田氏の雑誌に科学小説「青い心霊」を書くことになり、かきはじめた。二百枚の予定にて、今日は五十回を第一回として提出のつもり。
◯一星社出版用として「名立の鬼」の一冊を整理する。一星社の若主人は五年間出征していた青年にて、私の愛読者の由。お父さんが児童もの出版をやって居られるが、今度は復員して息子さんは大人ものをやる事になり、角田君と私のところへ来られた由。面識もないわけだが、私は何かこしらえないでは、すまない気がして、あえて引うけた次第である。
◯昌彦の夜の咳、とまらず。
◯中川夫人と芳子ちゃん、広島より帰宅。
九月十一日
◯けさの朝顔は、ことし植えた中で一番うつくしい空色と白とのしぼり[#「しぼり」に傍点]が咲いた。これで二輪目である。
◯徳川さんの「自伝」をたのしく三十分ばかり読み、あと大事に次の日へとっておく。
◯時代社の中村さんが来宅、第一回の「鬼火族」の稿料を届けて下さる。創刊号はまた一月おくれて十一月からとなった由。
◯四日市場の加瀬氏来る。沖縄第百号を一貫匁ばかりお土産に持って来てくれる。
◯久保田氏の発足を支援して「地中魔」一冊を整理してまとめる。外に「のみの探偵」と「月世界探険」であるが、この二つ、かなり手を入れた。因《ちなみ》に白楊社という名で立つよし。
◯田久保氏(元海軍少佐、青葉二分隊長)来宅。大いになつかしい。
十一月十七日(日)
◯十月中旬より血痰が出て、静養していたが、本月上旬にはとまり、今は治っている。この数日急に寒くなり、風邪をひいたらしく、ゆうべは熱が出、脈が多くなったので、アスピリン〇・五|瓦《グラム》をのんだ。今朝は寒気もなく、気温もいくらか逆戻りして温くなったらしく、雨が降り出した。
◯今朝、柴田氏を訪問の予定のところ、雨となったので、電話で断った。
◯陽子は山脇のバザーで、昨日と今日いそがしい。今朝はたくさん芋をふかして学校へ持っていった。模擬店の「若松」の係だそうだが、その売品の材料に使うらしい。何でも「若松」のお嬢さんが同級にいるとかで、その縁の出店らしい。昨日生菓子を持ってかえって来て一つくれたが、まず甘い方であって、幻滅のおそれはなきものだった。
◯きょうは午後から武田光雄君が来宅せらるる旨、昨夜電話があった。元「青葉」航海士時代に私が乗艦四十五日、そして知り合いになったわけだが、サボ島沖の海戦にて重傷、帰朝して軍医学校に入院、それからなおって又出陣。それから終戦となり、幸いに一命は全うしたので、東京帝大の経済学部へ入学して目下勉強のところ。同君の父君は元海軍大将、元外相、元日鉄会長の豊田貞治郎氏である。
◯きょうの「朝日新聞」の報道に、中国の映画俳優が戦犯として裁判にかけられていると記事があった。
◯日本では、地方官公吏の追放の実施でさわいでいる。電産のストライキは、末広巌太郎博士へ一任となったらしい。全教組は教全組とは別歩調にて文相へ「六百円最低承認に欺瞞あり」と申入れたる由。生産いよいよ低調。政治家はいないのか。憂国の士はいないのか。
◯「狐塚事件」という小説を、もう十日も机上に置いて書いているが、まだ半分しか書けない。しかも全部でたった三十枚ものなんだが。
◯弟佑一、十日ほど前より休養中にて、一ヶ月間静養を医師よりすすめられたる由。血沈が多いとのこと。富久子君が昨日電話をかけて来て始めて知ったわけだが、富久子ちゃんの話によると「血沈が一時に百ミリ位」という。これは信ぜられないが、とにかく働き過ぎの故であろうと思う。私も病体の時、弟の病は気になる。
◯荒木夫人、田
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