所へ長靴を借りに行ったところで、本もののプーが鳴り、目がさめた。
私は神経がするどい方であり「警報を聞きのがしてはならぬ」と思って眠るので、こんな夢を見るのであろうが、ひとつ眠り方を変えなければならないと思う。
◯隣組の防火班長さん、なかなか実直な人で、うちの小路までいつでも「警報解除」を告げにきてくれる。この人も、二度目のときにはこなかった。寒いし、眠いし、それにたいしたことではないので、班長さんには無理をしてもらわぬ方がいい。
十二月十三日
◯名古屋、清水あたりへ敵機来襲。「地上施設に損害を受けた」という発表があったので、心配している。この日は、帝都へは四、五機ぐらいであった。ねえや[#お手伝いさん]のお父さんがきていて、初めてこの招かざる客を見る。
暁の三時に、また敵機一つ来る。毎夜つづけてくる。六日以来ずっとだ。夜の当番は、私がやることにした。敵もこず、警報だけ出て、寒さにぶるぶるふるえるだけで、おしまいだった、今晩は……。
十二月十六日
◯珍らしく昨夜は米機きたらず、したがって起きずに済んだ。六日以来毎夜きていたものがこないと、ちょっと調子はずれの形。人間は環境になじむ性質が強いと感じた。
◯夜分起きるのは私一人と、当直をきめたが、まず少数機侵入のときはこれで十分だと思う。十五日の暁方の空襲のときは、西南西の林越しにちらちらと火が見えた。てっきり焼夷弾が落ちて、こっちに横流れに流れてくるものと思い、壕を出て垣根からのびあがって透かしてみたところ、焼夷弾にあらずして照明弾だった。それもかなりの遠方に見えた。
◯昼間、敵機の爆撃音がすごくなり、味方の高射砲もどんどん撃ちまくるとなれば、恐怖心もどこかへ吹っとんでしまって「おのれ、敵の奴め、味方よ、撃て撃て!」と敵愾心《てきがいしん》で身体中が火のように燃える。
◯良太[#甥]君の宿所附近二百メートルのところに爆弾一発落下し、畠に大きな穴をあけたが、附近の家に被害なく、ガラスも割れなかったという。畠はやわらかいから、爆発してもその爆風は土壌の圧縮によって相当のクッションになるらしい。
◯護国寺裏の町に爆弾が落ちて、壕内に入れておいた二歳と五歳の幼児が圧死し、母親は見張中であって助かった由。壕が家屋に近いことは不可。壕の屋根がしっかりしていないことは不可。
◯焼夷弾は左図のごとし。燃えるテープをひいてい
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