かなりあったらしい。
◯きょうは早暁から艦載機飛来。夕方に終ったかと思ったが、夜に入っても三十機ばかり押しよせた。

 八月九日(その一)
◯去る八月六日午前八時過ぎ、広島へ侵入したB29少数機は、新型爆弾を投下し、相当の被害を見たと大本営発表があった。これは落下傘をつけたもので、五、六百メートル上空で信管が働き、爆発する。非常に大きな音を発し、垂直風圧が地上のものに対して働くばかりか、熱線を発して灼《や》く。日本家屋は倒壊し、それによる被害者は少なくなかった。熱線は、身体の露出部に糜爛《びらん》を生じ、また薄いシャツや硝子は透過して、熱作用を及ぼすのである。
 広島の死傷者は十二万人という。これは逓信省《ていしんしょう》へ入った情報である。右新型爆弾の惨虐性につき、新聞論調は大いに攻撃するところがあった。
 新聞発表は八月八日であったが、この日は対策が示されなかった。李※[#「※」は「金+禺」、69−上−3]公殿下も御戦死(七日)爾来一機のB29も油断ならずとして、壕内待避をする事となった。
「敵は、新型弾使用開始と共に、各種の誇大なる宣伝を行ない、既にトルーマンの如きも新型爆弾使用に関する声明を発しているが、これに迷う事なく、各自はそれぞれの強い敵愾心をもって、防空対策を強化せねばならぬ」とA新聞はこの日の報道を結んでいる。
◯わが家の措置としては、情報判断により、つとめて裏の防空壕に入ること、表の地下物置は蒲団をかぶるようにし、上からの爆風に耐えるよう何か考えること(畳を重ねて上に置くことも一つ)、素掘壕の上に何か置くこと(大本箱を置くことも一つ)、素掘壕をもっと深く、かつ横穴式に掘ってみる事、もう一つは疎開のことを考え直すこと。尚もし家屋が倒壊すれば、その資材を使って、地下家屋を建てる事にすればよろしい。
 心配の一つは、農作物がこれによってやられるであろうから、今年の米の収穫は非常に減少する事であろう。そのための食糧対策として、イモ系のものをたくさん作って置く必要がある。その他の保存食糧の入手についても、努力せねばならぬ。
 積極的対策としては、飛行機増産により、敵機を侵入させぬよう努める事が肝要。
(昨夜あたりは、いつになく味方夜間戦闘機が相当数出て、上空を警戒していた)
◯敵が追い追いと新しい威力を備えた新兵器をくり出す事は、かねて予想された事であって
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