別れる前にカビ博士は、僕の合法的滞留《ごうほうてきたいりゅう》を政府に対してあらゆる手段によって請願《せいがん》することを誓ってくれた。
 タクマ少年が待っていてくれたので、僕は少年と連《つ》れだって考古学教室を出た。
「どうです。疲れましたか」
 少年は僕にきいてくれた。
「疲れはしないけれど、標本になって閉《と》じこめられていたので、気が詰《つ》まったよ。なんか気持ちがからりとすることはないだろうかね」
「ありますよ、いくらでも、本当はお客さんは、これから食事をしてそれから睡眠《すいみん》をとるといいんですが、その前に、喜歌劇《きかげき》見物でもしましょうか」
「喜歌劇だって、それはいい。ぜひそこへ案内してくれたまえ」
 僕とタクマ少年は、動く道路を利用し、第十八|歓楽街《かんらくがい》のクラゲ座へ行った。
 入場してみて、僕はやっぱりおどろかされた。すばらしい劇場だといって、僕がこれまで知っている、座席のきちんと並んだ大劇場を拡大したすばらしさとは違う。
 場内は、森かげの草原のようであった。そこに掛け心地のいい椅子が、勝手に放りだしてあるんだ。客はそれを好きなところへ移して座
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