をしていただきたいと頼んだ。
「ふむ。では契約《けいやく》した。学生が待っているから、早速《さっそく》標本《ひょうほん》になってもらおう。こっちへ来なさい」
博士は廊下へ出ると、すたすたと右手の方へ歩き出した。その足の速いことといったらまるで駆足《かけあし》をしているようだ。僕は博士を見失ってはたいへんと、けんめいに後を追いかけた。そしてタクマ少年と、どこで別れてしまったのか知らないほどだった。
「なにをまごまごしている。ここだ、ここだ」
博士のわれ鉦《がね》のような声にびっくりして、僕は博士が手招《てまね》きしている一つの室へとびこんだ。
(あっ、いい室だなあ)
思わず僕は感嘆《かんたん》の声を放った。
なんという気持ちのいい室であろう。室は小公会堂《しょうこうかいどう》ぐらいの大きさであるが、まるで卵の殻《から》の中に入ったように壁は曲面《きょくめん》をなしていてクリーム色に塗られている。清浄《せいじょう》である。そしてやわらかい光線がみちみちていて、明るいんだが、すこしもまぶしくない。
室の中には、やまと服を着た男学生と女学生とが十四五名集まっていて、カビ博士と私を迎え
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