がかかっていた。
と、いきなりその扉が動き出したと思うと壁の中にはいってしまった。開いた戸口に、頭の大きな一人の異様な人物が白い実験着をつけて現われ、僕をにらみつけた。
その顔に、どこか見覚えがあった。
標本勤務《ひようほんきんむ》
「カビ教授、ここにお連れした方がさっきテレビ電話でお話した本間さんでいらっしゃいます。どうぞよろしく」
タクマ少年は、あざやかに僕をカビ博士に紹介してしまった。カビ博士は少年の義兄《ぎけい》に当たるんだから「ねえ兄さん」とでも呼びかけるかと思いの外《ほか》、そうはしないで「カビ教授」などと、しかつめらしく名を呼ぶところが、なんだかわざとらしかった。だが、それも博士が、特別なる変人だから、そのようにしかつめらしく扱うのかもしれなかった。
「君はちゃんと勤めるだろうな。途中で逃げ出すようなことはなかろうな。もしそんなことがあると、わしは君を保護することに責任がもてないんだ。今はっきり誓いたまえ」
カビ博士は、あいさつも抜きにして、いきなり僕の頭の上で、かみつきそうないい方で、わめいた。
僕はもちろん、勤めは怠《なま》けないから、ぜひ保護
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