わけにいかないだろう」
「君は、気がたしかかい」
 僕はもうだいぶんおちついてきたので、そういってやりかえした。
「僕のことかい。僕はもちろん気はたしかだとも。さあ、それではこっちへ来たまえ。そこに入口があるんだから……」
 そういった辻ヶ谷君は、そこにしゃがみこんで、自分の足もとの、こわれた瓦《かわら》の山を掘りかえしはじめた。しばらく掘ると、下からさびた丸い鉄ぶたがあらわれた。辻ヶ谷君はその鉄ぶたの穴へ指を入れ、上へ引っぱるとふたがとれ、その下は穴ぼこになっていた。辻ヶ谷君は、こんどはその中へ手をぐっとさしこんだ。肘《ひじ》も入った。腕のつけねまで中に入った。顔を横にして辻ヶ谷君はしかめッ面になった。
「どうしたい、辻ヶ谷君」
 僕は、すこし気味がわるくなったので、きいてみた。
「しずかに……」辻ヶ谷君は、しかりつけるようにいった。
「……うん、あったぞ」
 辻ヶ谷君の青んぶくれの顔に赤味がさしたと思ったら、彼はあらい息と共に穴から腕をひきぬいた。穴ぼこの中からがちゃがちゃという音がきこえたと思ったら、彼の手は鉄の鎖《くさり》を握って引っぱりだした。
「これさ。これを引っぱると、君
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