がした、正《まさ》しく断崖にちがいない。目の前にそびえ立つのは、海溝をつくっている海中の断崖であったから。
断崖の下は、かなりひろく平《たい》らにならされていて、芸術的ではないが、実用向きの幅《はば》のひろいセメント道路が出来ていた。仕事の早いのには全くおどろかされる。僕が今立っているところは、昨日の夜までは、海水が満々《まんまん》とたたえられていたところで、深海魚どもの寝床であったんだ。
海溝の断崖の色は、わりあい明るい色をしていた。黄いろいような、赤味のついているような岩質で、黒ずんだ醜《みにく》い深海魚とは、およそ反対の感じのものだった。
道を行くこと五十メートルばかりで、断崖の中へ向かって掘りすすめられている坑道の入口へ出た。これは今、試験的に、穴を掘ってみているので、土はどんな地質かどんな岩があるか、鉱石であるかそれを調べているのだという。
坑道の中から、長い帯のようなものが出ていて、それが川の流れのようにこっちへ押しだしてくる。それはいわずと知れたベルト・コンベーヤーで、掘った土をその上に乗せて穴の外へはこび出す器械だった。
技師と見える人が四五名、流れ出てくる土
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