になった。
 その道々、僕はタクマ少年にいろいろと話しかけた。さっき海底をのぞかせられてから、僕は胸の中にふに落ちないことがたくさんたまったからである。
「ねえ少年君。僕はさっぱり世の中のことにうといんだが、一体これはどういうわけなんだろうね」
「何がですか」
「何がといって、つまりこの町のことさ。なぜこんな海の底に人間が住むようになったのかね」
「そのわけは簡単ですよ。今から二十年前に日本は戦争に負けて、せまい国になってしまったことは知っているでしょう。しかしその後人間はどんどんふえで、陸の上だけでは住む場所もなくなったんです。なにしろ相当広い面積を農業や林業や道路などに使わねばならず、輸出のための工場も広い敷地《しきち》がいるので、いよいよ窮屈《きゅくつ》になったんです。そこで困って考えて、ついに考えついたのが、海底に都市をつくることでした。これはすばらしい名案でした。この名案を思いつかなかったら、日本の国はどんなに苦しい目にあわなければならなかったか分りません」
 タクマ少年の声は泣いているような、ひびきを伝えた。
「でも、海底に都市をつくるなんて、たいへんな工事じゃないか。水圧
前へ 次へ
全184ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング