もかわっているし、航空母艦じゃあないだろうか」
「そうです。あれは航空母艦のシナノです」
「シナノ? すると、あの六万何千トンかあったやつかね。太平洋戦争中に竣工《しゅんこう》して、館山《たてやま》を出て東京|湾口《わんこう》から外に出たと思ったら、すぐ魚雷《ぎょらい》攻撃をくらって他愛《たあい》なく沈没してしまったというあれかね」
「そうですよ」
「あんなものを、なぜあんなところへ持って来ておいたんだい」
「シナノは、あそこで沈没したんですよ」
「ああ、そうだったか。すると、ここは東京湾口を出たすぐのところの海底だというわけだね」
僕は、始めて自分が今立っている位置を知ることが出来た。しかしなんという変りかたであろう。海底にいつの間にかこんな立派な海のぞき館が出来ているなんて。
「ねえタクマ君。あんなシナノをなぜ片づけてしまわないのかね。目ざわりじゃないか」
「そういう意見もありましたがね、しかし多数の意見は、シナノをあのままにしておいて、われわれが再び人類|相食《あいは》む野蛮《やばん》な戦争をしないように、そのいましめの記念塔として、あのままおいた方がいいということになったので
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