で立っている。
「ねえ、タクマ君。一体見物する第一番の名所はどこなのかね」
 僕はたずねた。
「まずこの町の一番高いところへ御案内するのが例になっています。そこへ行けば、魚群《ぎょぐん》が見えます」
「えっ、なんだって」と僕はおどろいた。
 どうもタクマ少年の話は、いちいちおかしい。しかし僕がそれをつっこむと、たいてい失敗してこっちが田舎者あつかいにされる。でも、こんどはタクマ少年をかならずへこますことができると思った。
「ねえ、タクマ君。君は今、魚の群を見物するために、一番高い所へ案内しますといったが、それはいいまちがいだろう。だって、魚は海の中に泳いでいるんだから、それを見物のためには、一番高い所ではなく、一番低いところへ行かなくてはなるまい。え、君。そういう理屈《りくつ》だろう」
 そういって僕は、どうだいといわんばかりに胸をはって少年を見た。
「いや、お客さんのおっしゃることの方が、まちがっていますよ。だってこの町では、下へさがればさがるほど魚はないんですからね」
「深海魚《しんかいぎょ》ならいるんだろう」
「いえ、そこには第一水がなくて土と岩石《がんせき》ばかりです。だから魚
前へ 次へ
全184ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング