昔に博物館入りをしてしまって、この町では使わなくなっているのだ。いいだすたびに、とんだ恥《はじ》をかく。


   やまと服


「さあ乗物のところへ参りました。これにのりまして、目的地へ急ぎましょう」
 タクマ少年はそういって、前方を指さした。しかしふしぎなことに、目の前は川のようなものがあるばかりで、小型自動車一つ待っていないのであった。ふしぎ、ふしぎ。
「さあ、ようございますか。ご一緒に足をかけましょう。一《ヒ》イ、二《フ》ウ……」
 タクマ少年は右足を出して、川の中へ足をつけようとするので、僕はおどろいて、
「やっ、待った。待ちたまえ」
 と叫んだ。
 タクマ少年は、けげんな顔をして足をひっこめた。
「君。短気《たんき》を起さないがいいよ。川の中へはまって、あっぷあっぷするのは、いい形じゃないよ」
 僕は忠告してやった。
「川ですって。どこに川がありますか」
「タクマ君。君は目がどうかしているらしいね。ほら、目の前に川が流れているじゃないか」
 と、僕は、われわれの立っているところのすぐ下を流れている川を指した。
「ちがいますよ、お客さま。これが乗物でございます。……ああ、そう
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