ことがあった」
「はい、はい」
「あのう、ちょっと腹がへったから、何かうまそうなものを皿にのせて持ってきてくれ」
「はあ、かしこまりました」
「これは一番急ぐぞ」
そのように命じて、僕はにやりと笑った。しめしめ、これですてきなごちそうにありつける。さてどんなごちそうを持って来るか……。
タクマ少年
老ボーイが持って来たごちそうのすばらしさ。それは山海《さんかい》の珍味づくしだった。車えびの天ぷら。真珠貝の吸物、牡牛《おうし》の舌の塩漬《しおづけ》、羊肉《ひつじにく》のあぶり焼、茶の芽《め》のおひたし、松茸《まつたけ》の松葉焼《まつばやき》……いや、もうよそう。いちいち書きならべてもしようがないから。
僕は、これ以上お腹がふくらむと破けるところまでたべた。そのとき老ボーイが又やって来た。
「旦那さま。案内人が参りましてございます」
ようやく案内人が来たか。
「よろしい。では、すぐこれから出かける。あのう、帽子とオーバーとを持ってきてくれ」
ほんとうのところ、僕は自分の帽子やオーバーがこのホテルに預けてあるかどうか知らなかった。しかしこうなった以上は、なんでもかんで
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