つまり刑罰《けいばつ》の重さはどんなものでしょうね」
「罰の重い軽いに従って、冷凍時間に長い短いがあります。また、たびたび罰を重《かさ》ねる悪質の者は、永久冷凍にして、物置などの壁の材料に使われます」
「永久冷凍にして、物置などの壁の材料に使うというと、どんなことになるんですかね」
僕には、カスミ女史の言葉の意味がはっきりのみこめなかった。
「つまりそれは、永久冷凍なんだから、コンクリートや煉瓦《れんが》や材木などと同じような固い材料なんですからねえ。ですから冷凍人体をたくさん積みあげ、壁などをこしらえるわけです。冷凍の物置などにはよく使われていますよ」
おやおや、たいへんな目にあうものだと、僕は気持ちがわるくなった。百年も千年も、物置の壁になって暮しているなんて、人間のやることではない。
「なんとか合法的に、この国に停《とどま》る道はないものでしょうか」
冷凍物置の壁にされちまわない先に、なんとか安全な道をとっておきたいものだと考えた。
「そうですね」
カスミ女史は首をかしげる。
「ないことはありませんが、手続きがなかなか面倒でしてね……」
「手続きの面倒なくらいはいいですよ。なにしろ冷凍人間になってしまわない先に、その手を打っておかないと、後悔《こうかい》してもおいつきませんからね。どうぞその方法を教えて下さい。それは一体どうすればいいのですか」
「それはね……でもたいへんなのですよ、そのことは……」
と、カスミ女史はいいにくそうにしている。
「早く教えて下さい。どんことでも、僕はおどろきやしませんよ。とにかく何かの合理的な手段によって、この国で当分暮すことが出来れば、たいへんうれしいのです」
実は、僕は例の黄金をこの国から持ち出して、本当の東京へ土産に持って行こうという気を起こしているのである、しかしこのことはうっかり誰にももらすことが出来ない。そんなことが分ったら、それこそ僕は永久に冷凍されちまって壁の代用品にならなければならない。
「その方法の一つは、研究材料になるのです。つまり、あなたの場合なら二十年前の人間として、二十年前あるいはそれより以前《いぜん》の生活や社会事情や人格《じんかく》や嗜好《しこう》、言動《げんどう》、能力などといういろいろな事柄《ことがら》を研究する材料になることですね。それなら考古学者《こうこがくしゃ》が欲しいというかもしれません」
「ははあ、考古学者ですかね」
僕は急に自分がかびくさい人間になってしまったような気がした。
「あるいは、医科大学の標本室へ入れておかれる手もありますがねえ」
「ああ、それも悪くないですね。大学生を相手に、僕が話をしてやればいいのでしょう」
「それもありますけれど、主な仕事は、はだかになって、身体をいじらせることです。男の大学生も女の大学生も居ますが、この二十年に人類ばどんな進化をしたか、性能はどんなに変化したか、それを器械で調べるのです。なにしろ学生なもんで、扱い方が乱暴で、一二ヶ月のうちに手足がもげてばらばらになってしまうそうです」
「ああ、それは駄目だ」
手足がもげてばらばらになるなど、うれしいことではない。
「やっぱり考古学の方がいいですね。どこかに親切な思いやりのある学者を御存じでしょうか」
「そうですね」カスミ女史は目をぱちぱちさせていたが、
「実は私の夫のカビ博士は考古学者なんです。話をしてみたら、あるいはあなたが欲しいというかもしれません。でもね、あなたは辛抱《しんぼう》なさるでしょうか」
僕はよろこんだ。カスミ女史の夫なら、きっといい人であろう。
「辛抱はしますよ。僕、これでなかなか辛抱づよいのですからね」
「でも、私の夫のカビ博士は、学問に熱心のあまり、時には気が変になるのですよ」
「え、気が変に? いや、それでもいいですよ、僕がこの国に停《とどま》っていられるなら……」
前後も考えず、僕は決めてしまった。
考古学教室
このすばらしい海底都市に、もっと永く居たいばかりに、僕はいろいろと苦労をしなければならなかった。
僕の欲が探すぎると責《せ》めてはいけない。誰だって僕みたいな境遇《きょうぐう》におかれるなら、きっと僕と同じ考えをおこすにちがいない。なんにしても二十年後のこのすばらしい海底都市の文化発達のありさまを一目見た者は、もとの焼跡《やけあと》だらけの、食料不足の、衣料ぼろぼろの、悪漢《あっかん》だらけの一九四八年の東京なんかに戻りたいと誰も思わないだろう。
そのように、元の東京へ戻りたくないのであるが、僕を時間器械にのせてここへ送ってくれた、友人辻ヶ谷君は、いつその器械をまわして、僕をもとの焼跡へよび戻すかしれないのだ。彼との約束は僕がたった一時間だけ、二十年後の世界を散歩することだった。こうと知っ
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