側の責任をただした。
 これに対して、海底都市側では全然知らなかったために起った惨害事件であると釈明《しゃくめい》し、そして今後は大いに気をつけること、またこれまでの被害については、ある程度の見舞品を贈ることを答えた。
 魚人たちの側では、それだけではあきたらないと述べ、海底都市の発展をこれ以上ひろげないこと、今始めている一切の、それらの工事を中止せよと申し入れた。
 だが、海底都市側では、そういうことには従うことが出来ないこと、人口の多いことと生活のために、海底都市はますますひろげられねばならないことを主張して、ゆずらなかった。
 そこでこの会談は、暗礁《あんしょう》にのりあげた形となった。
 僕もたいへん残念であったし、カビ博士もすっかりしおれてしまった。
 会談は、対立のまま、すこしの解決の光も見えず、二日三日と過ぎていった。
 その間、オンドリ氏はじめ五名の魚人代表は、しきりに彼らの郷里と連絡をとっていたが、日ましに彼らの態度は硬化してきて、これでは間もなく会談は決裂して、両方は武力をもって解決するという道をえらぶほかなくなるのではないかと心配された。
 もしそんなことが起ったら、それこそたいへんである。
 海底において、人類ヤマ族と、その下層《かそう》にすむ魚人トロ族が、双方の全滅をかけた大戦闘を始めなくてはならないのだ。そのふしぎなすさまじい海底戦闘は、どんな風にひろがるか、考えてみただけでぞっとする。そしてそれによって生《しょう》ずる惨禍は、とても見るにしのびないほどのいたましいものであろう。
 しかも、どっちかが勝ち、他方が負けたとしても、勝った方はもう今までのように気持よくそこに住むことが出来ないだろう。
 いや、ほんとうは、この海底戦闘では、その特殊な場所がらと体力から考えて、双方ともひどいぎせいを払うことになりそうだ。つまり、共にひどく死に、そして傷ついて、この海底は死屍《しし》るいるいとなるであろう。
「カビ君。なんとか妥協《だきょう》の道はないのか」
 僕はカビ博士にきいた。
「ないね。絶望だ。それ以上|譲歩《じょうほ》すると、わが海底都市は生存のための海底開拓ができなくなる。水深五百メートルのところまでは、絶対に自由行動をみとめてもらわねば困る」
 博士は、かたい決意を眉のあたりに見せて、譲歩《じょうほ》のできないことを主張した。
 僕はオンドリのところへいって同じようなことをきいた。
「だめですね。これ以上、譲歩できません」
 とオンドリは冷やかにいった。
「もっとも、わしは始めからこの協定は不成功に終ると思っていました。ヤマ族は全く無反省《むはんせい》です。われわれトロ族がこれまでに蒙《こうむ》った惨禍《さんか》に目を向けようとしない。そしてわれわれを無視して、無制限に侵入して来る。はなはだ遺憾《いかん》だが、こうなれば一戦を交える外《ほか》ないです」
 オンドリは、トロ族の好戦的態度を自らの言動の上に反映して、いよいよ強いことをいうのだった。
 僕は全くいやになった。悲鳴をあげた。こんなに和平のために努力しているのに、力およばず、両者はだんだん離れて行き、そしてますます態度は硬化し、前よりもずっと正面衝突の危険が感じられてくるのだ。
 僕にいわせると、どっちも病気にかかって、熱にうかされているようなものだ。なんとかして解熱させたうえでないと、どつちも冷静になれないのであろう。僕は、ついに道に行きづまって、神に恵《めぐ》みを乞《こ》うた。
 はたしてそれは神の御心《みこころ》に通じたかどうか僕には分らないが、とにかくすばらしい機会がやって来た。予想だにしなかった絶好のチャンスがやって来た。ヤマ族とトロ族のにらみ合いも、そのとたんに解消《かいしょう》の外《ほか》なくなった。この機会というのは何だったろう?
 とつぜん、この海底に起った大地震だ!


   和解《わかい》の日


 とつぜんこの海底に起った大地震!
 それはこの十世紀間にわたってまだ一度も記録されたことのないほどの烈《はげ》しい海底大地震だった。そしてその震源地《しんげんち》が、トロ族の棲《す》んでいる地帯のすぐ下、深さの距離でいって、わずか千メートルばかりのところに起ったものであった。
 そのために、海底都市は天井が落ちたり、壁が倒れたり、また一部には海水がどっと侵入したところもあった。しかしいろいろとそういう場合の安全装置がしてあったので、災害はある程度でくいとめられた。
 海底都市の方は、まずその程度であったけれど、トロ族の居住《きょじゅう》地帯の方は、非常にひどい災害をうけた。そして大混乱はいつまでもつづき、それはだんだんと大きな不安のかげをひろげていった。
 海底都市へ来ていたオンドリを始め五人のトロ族代表は、次々におくら
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