んに」]険しい道であろうと、それが道であれば、僕は突き進まないでいられないのだ。
「はははは、僕を血祭にするというのか」
僕はオンドリの方へ笑いかえした。
「そうだ。それによって、われわれは、先ず同胞の流した血の最初の一滴をとりかえすのだ。あとは海底都市へなだれこんで、何十倍何百倍の血にして取り戻す……」
「はははは。たわ言《ごと》もいい加減《かげん》にしたまえ。君たちはわれわれ人類ヤマ族を劣等生物視《れっとうせいぶつし》しているが今に後悔するだろう。われわれ人類は、君たちみたいに野蛮ではない。また文化においてもずっとすぐれている」
「うそだ。ヤマ族は貧弱な文化力を持った劣等未開の奴ばらだ」
「それが認識不足というものだ。今に分る。そのときおどろかないように……」
「ヘヘン、わらわせる。なにが認識不足だ」
「殺してしまえ。八つ裂にしろ」
「早く、殺《や》っちまえ。顔を見ているのも、むなくそが悪い」
「迷っている死霊《しれい》のために、そのヤマ族野郎の頭を叩きつぶせ」
トロ族群衆の興奮と激昂《げきこう》とはその頂点に達した。ついに彼らは鬨《とき》の声をあげて、僕の方へ殺到した。手に手に異様な凶器《きょうき》を持ち、目玉をむき出し歯をむき出して、怒れる野獣群のように僕を目がけてとびついた。
何條《なんじょう》もってたまるべき、僕はたちどころに惨殺《ざんさつ》されてしまった――。
ちりちりちりちりン。
警鈴《けいれい》が鳴っている。
僕は目を見開く。まぶしい金属壁《きんぞくへき》の反射である。
(ほう、ここは見覚えのあるタイム・マシーンの中だ!)
と、気がつく折しも、この金属壁の一部がぽかりと四角にあいて――そこが扉だったのだ――外からこっちを覗きこんだ者がある。
「あッ、君は……」
覗きこんだ男こそ、辻ヶ谷少年だった。僕をこのタイム・マシーンの中に入れてくれた、同級生の辻ヶ谷君だった。
「おう、君。もういいだろう。出たまえ」
「いやだ。今が大切なんだ。もう一度二十年後の世界へ僕を戻してくれ。君も知っているじゃないか、僕は今トロ族に殺されて……」
「何をいってるんだ。うわごとはそのくらいにして、こっちへ出て来たまえ。足がどうかしたんなら手を貸してやろうか」
「だめ、だめ。絶対に下《お》りない。ねえ君、頼むよ。今非常に大切なところなんだ。僕がたとえ何十回ここへ戻って来ても、僕がもしいいというまでは、君は僕を二十年後の世界へ何回でも送りつけるんだ。そうしないとわが人類は一大危機にさらされることになるんだ。いいかね、何回でも僕を、二十年後の世界へ追いかえすのだ」
僕は泣かんばかりにして辻ヶ谷君に頼んだ。
なにしろ僕はトロ族の暴民のため殺されたにちがいない。死ぬと共に、僕はこの世の中へ戻って来て、タイム・マシーンの中に自分の身体を発見したのである。僕が予想したとおりだった。
然《しか》らば僕は、かねて計画したところに従って頑張るばかりだ。これから何べんでもトロ族の暴民の前に姿を現わして、彼等をおどろかせ、そして彼らをどこまでも説得するんだ。
「よォし、そんなに君がいうんなら、また二十年後の世界へ送ってやるが、そのかわりどんな事が起っても、僕は知らないよ」
辻ヶ谷君は、そういって扉に手をかけた。
「ありがとう、ぜひ頼む。――いいね、僕がもうよろしいというまでは、僕が何べんここへ戻って来ても、二十年後の世界へ追いかえすのだよ」
「よし分かった。君の希望するとおりに計《はか》らってあげる」
そういうと辻ヶ谷君は、扉をぱたんと閉めた。
それから例のとおりタイム・マシーンは働きはじめた。あたりがぼんやりとなる。そしてしばらくすると、別の音響が聞こえて来た。
「ひッひッひッひッ。見やがれ。とうとう八つ裂にしてやった」
「血祭《ちまつり》第一号だ。ヤマ族め、思い知ったか。くやしかったらもう一度生きてみろ」
僕は今だと思った。僕はむくむくと起きあがった。そして大音声《だいおんじょう》をはりあげた。
「あわててはいけない。僕は死んでいないのだ。オンドリ、僕が見えるか」
僕は傍《そば》にいたオンドリの肩を叩いた。そのときのオンドリのおどろいた顔!
不死身《ふじみ》
「僕はまだ死んで居らんぞ。よく見たまえ」
僕はオンドリの腕をとらえて、つよくゆすぶった。
「おやッ。まだ死ななかったか」
オンドリは、僕がまだ生きて居るのを、ようやく認識したようだ。
「この野郎はまだ生きている。これではまだ血祭《ちまつり》にならないぞ」
オンドリは前に集まっているトロ族たちを煽動《せんどう》した。さっきまでは彼は平和愛好者のような顔をしていたのに、今はもうがらりと変って煽動者をつとめている。なんという卑《いや》しい根性《こんじょう
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