のことを考えてみただけでも身ぶるいがする。あのすごい水圧に対して耐《た》える材料といえば、鉄材とセメントを使ってするにしても、たいへんな量がなければならない。それにさ、うっかりするとそれに穴があいて、水が町へどっと滝のように流れこんできたら、これはいよいよたいへんだよ。海底の町に住んでいる人は、ほとんど皆、おぼれ死んでしまわなければならないわけだからね。またその工事にしても何十年何百年かかるかもしれない……」
「待って下さい、お客さん」
タクマ少年はおかしさをこらえきれないという顔つきでいった。
「まさかお客さんは日本人が原子力を使うことを知らないとおっしゃるのじゃないでしょうね」
「原子力? ああそうか。あの原子爆弾の原子力か」
「いえ原子爆弾ではありません、原子力を使ってエンジンを動かしどんどん土木工事をすすめるのです。昔は蒸気の力や石炭や石油の力、それから電気の力などを使ってやっていましたが、あんなものはもう時代おくれです。原子力を使えばスエズ運河も一ヵ月ぐらいで出来るでしょう。また海の水をせきとめる大防波堤《だいぼうはてい》も、らくに出来上ります。昔のエンジンの出す力を、かりに蟻《あり》一匹の力にたとえると、今どこにでもある一番小さいエンジンの出る力は、七尺ゆたかな横綱力士が出す力ぐらいに相当するんですからねえ、まるで桁《けた》ちがいですよ」
「なるほど、そういわれると、そのはずだねえ。しかし……」
「しかしも明石《あかし》もありませんよ。原子力エンジンが使えるおかげで全世界いたるところに大土木工事の競争みたいなものが始まったことでしたよ。そして日本では、この海底都市の建設が始まったわけです。三浦半島のとっさきの剣崎《つるぎざき》の付近から原子力エンジンを使ってボーリングを始めましたが、どんどん鋼材《こうざい》とセメントを注ぎこんで、その日のうちに工事は海面下五十メートルに達するという進み方です。翌日は更に掘って二百メートル下まで掘り下げ、それからこんどは横に掘り始めたんです」
「そうかね、そんなに速く工事が進むとは、夢のようだ」
「最初の設計では、大体海面下に十階建くらいの大きなビルのようなものを作るつもりでしたが、工事があまり楽に行くので、急に設計替えとなり、陸地をはなれること十五キロの地点を中心とした海底都市を作ることになりました。そしてその探さは、
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