ドリも、ついに礼をいって、万事《ばんじ》を相手にまかせた。
「オンドリ君。君は今の一言で、たくさんのトロ族を救った。君は、トロ族の大恩人になった。世界平和の鍵のような役目をしたのだ。君たちはあとで、トロ族全体から、うんと感謝されるだろう。よく分ってくれたねえ」
僕はオンドリの身体をだいて、よろこびのことばを送った。
「いや。われわれの力ではない。これは君の力で、こうなったのだ。君の辛抱《しんぼう》づよいこと、君の深い愛、君の正しい信念――君が使者になって地底へ来てくれたんでなかったら、こう平和にはいかなかったろうと思う。ありがとう、ありがとう」
オンドリは、僕にすがりついて、感謝《かんしゃ》のことばをのべてくれた。
さあ、これで平和のうちに、惨禍《さんか》のトロ族たちを救い出しに行ける。
カビ博士は、救済団長《きゅうさいだんちょう》になって、すぐ出発することになった。もちろんオンドリたちといっしょに、先頭に立って地底へのりこむのだ。
海底都市の人々は、この救済団の出発を見送るために、広場をさして集まって来た。すごい人出だった。こんなに人が集まったことは、海底都市が始まって以来今までに一度もなかったことだ。
人々の声は、カビ博士の名をよんで、その殊勲《しゅくん》をほめたたえる。博士は上気《じょうき》して、顔をまっ赤にしている。
意外なる待人《まちびと》
「おめでとう、カビ君。この手柄によって、君はこの次の市長に選挙せられるだろう。しっかりやって来たまえ」
僕は博士の肩をうしろから叩いて、そういった。
博士は、くるりとうしろをふりかえって、片目をふさいで頭を振った。
(そうじゃない。みんな君の手柄なんだ)
という意味をこめているのだ。
「これから君もいっしょに来て、わしを例のとおり助けてくれるだろうな」
「もちろんだ。僕はこの機会に、徹底的にトロ族を研究し、そして彼らのために幸福な安住《あんじゅう》のできる国を建設してやりたいと思っているんだ」
「おお、万歳《ばんざい》。それだ、君はこんどこそ表面に立って仕事をするのだ。わしは君のことについて、いずれ市民にすっかり本当のことを話をするつもりだ」
「不正入国の影の人間だということもか」
「しいッ。……大きな声を出してはいけない。わしも同罪《どうざい》になるおそれがある。それは隠《かく》してお
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