オンドリのところへいって同じようなことをきいた。
「だめですね。これ以上、譲歩できません」
とオンドリは冷やかにいった。
「もっとも、わしは始めからこの協定は不成功に終ると思っていました。ヤマ族は全く無反省《むはんせい》です。われわれトロ族がこれまでに蒙《こうむ》った惨禍《さんか》に目を向けようとしない。そしてわれわれを無視して、無制限に侵入して来る。はなはだ遺憾《いかん》だが、こうなれば一戦を交える外《ほか》ないです」
オンドリは、トロ族の好戦的態度を自らの言動の上に反映して、いよいよ強いことをいうのだった。
僕は全くいやになった。悲鳴をあげた。こんなに和平のために努力しているのに、力およばず、両者はだんだん離れて行き、そしてますます態度は硬化し、前よりもずっと正面衝突の危険が感じられてくるのだ。
僕にいわせると、どっちも病気にかかって、熱にうかされているようなものだ。なんとかして解熱させたうえでないと、どつちも冷静になれないのであろう。僕は、ついに道に行きづまって、神に恵《めぐ》みを乞《こ》うた。
はたしてそれは神の御心《みこころ》に通じたかどうか僕には分らないが、とにかくすばらしい機会がやって来た。予想だにしなかった絶好のチャンスがやって来た。ヤマ族とトロ族のにらみ合いも、そのとたんに解消《かいしょう》の外《ほか》なくなった。この機会というのは何だったろう?
とつぜん、この海底に起った大地震だ!
和解《わかい》の日
とつぜんこの海底に起った大地震!
それはこの十世紀間にわたってまだ一度も記録されたことのないほどの烈《はげ》しい海底大地震だった。そしてその震源地《しんげんち》が、トロ族の棲《す》んでいる地帯のすぐ下、深さの距離でいって、わずか千メートルばかりのところに起ったものであった。
そのために、海底都市は天井が落ちたり、壁が倒れたり、また一部には海水がどっと侵入したところもあった。しかしいろいろとそういう場合の安全装置がしてあったので、災害はある程度でくいとめられた。
海底都市の方は、まずその程度であったけれど、トロ族の居住《きょじゅう》地帯の方は、非常にひどい災害をうけた。そして大混乱はいつまでもつづき、それはだんだんと大きな不安のかげをひろげていった。
海底都市へ来ていたオンドリを始め五人のトロ族代表は、次々におくら
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