でに四五日かかった。それは彼らが、海底都市における生活になれないためと、そしていろいろな気づかれが重なったせいであった。
「いかがですか、オンドリ氏。もうすこしは空気の中の生活になれましたか」
 僕は、五日目にそのことをたずねた。それは市長たちが一日も早く会談を始めたくて、カビ博士に毎日のようにさいそくをしているからだった。
「ああ。ようやくなれて来たが、あまりながくここに逗留《とうりゅう》していると、病気になるね」
 オンドリ氏は、気密兜《きみつかぶと》の中から、そういった。
 彼ら五名は、いつでもこの気密兜を被《かぶ》り、気密服をすっぽりと着ていなければならなかった。この兜《かぶと》と服の中には、海水と、そして特別な気体とがはいっていた。それは彼らの呼吸になくてはならないものだった。彼らが身体をうごかしたとき、兜の透明板《とうめいばん》の中で、海水がしぶきをたてるのが、よく見られた。
 またこの兜や服は、彼らの裸身《らしん》にかかる圧力を、ちょうど適当に保っていた。これがないと、いつも圧力の高いところで生活していた彼らは圧力の低い空中ではとても生きていられないし、身体がたちまち気球のようにふくれてパンクするおそれがあった。
 それに、もう一つ、彼らの異様な形をした裸身《らしん》が、海底都市の人たちの目にとまって、不快な感じを持たれたり、きらわれたりするのを防ぐためにも必要だった。


   破局《はきょく》来《きた》る


 オンドリ氏をはじめトロ族の代表者たちが、いよいよ会談を始めることを承知した。
 会議場は、市会議事堂であった。
 海底都市側では、市長をはじめ七名の最高委員たちが出席した。
 カビ博士が急造した言語の翻訳器械は、各人の胸にとりつけられた。それは写真器ほどの小型のものだったが、なかなか成績は優秀で、相手の言葉はこの中ですぐ翻訳されて生理波《せいりは》となり、自分の脳を刺戟《しげき》する。すると相手の言葉が自分たちの言葉となって感ずる仕掛だった。
 つまり、じっさいに相手の言葉は音響とならず、直接に聴覚を刺戟して、音を聞いたと同じに感ずるのだった。
 会談は、すらすらとは行かなかった。
 オンドリ氏を始めトロ族の委員たちは、会談が始まると、急にはげしい気性《きしょう》を表に出して、これまでのかずかずの惨害《さんがい》事件をならべあげて、海底都市
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