になる。だから光源をもっとふやせば、影はそれに応じてふえる。影を五つも六つも持つことは、らくにやれることだ。しかし僕のように、この世に影をなげかけることの出来ないものは、影のふやしようがない。
もっとも、このことも理学的に研究を進めるなら、あるいは出来るようになるかもしれないが……。
僕たちは、ついに最後の砂をつきやぶって海底に出た。
例のなつかしい海底風景であった。
僕はカビ博士のことを念頭《ねんとう》に思いうかべた。そこで博士の貸してくれた通信機のことをも思い出して胸のあたりをさぐってみると、ちゃんとそれがあった。これ幸いと僕はその送話器を通じて、放送をこころみた。
すると、応答があった。
「了解した。すぐそこへ迎えに行く」
という。
そういってから、五分間とかからないうちに、カビ博士は高速潜水艇メバル号に乗ってやって来た。しかもそのうしろには、メバル号よりずっと大きなりっぱな潜水艇が三|隻《せき》したがっていた。
「ご苦労だったね。大いに心配していた」
と博士は潜水服姿であらわれていった。
「ひどい目にあったよ」
「そうだろう。あとから話を聞くことにしよう。……あんまり君が戻って来ないものだから、とうとう、わしは政府を動かして、この潜水艇三隻の協力を得ることになったのだ」
博士はそういいながら、五人のトロ族の方をじろりと見た。
新龍宮《しんりゅうぐう》ホテル
五人の魚人《ぎょじん》たちをむかえた海底都市は、その歓迎に、町々がひっくりかえるほどのにぎやかさであった。
そういう魚人が、海底のさらにその下に住んでいたとは知らない人の方が多かったので、「先住《せんじゅう》トロ族の発見とその来訪《らいほう》」というカビ博士の解説文は、報道網《ほうどうもう》を通って海底都市の人々に大きなおどろきと、深い感銘とをあたえた。そして代表オンドリ氏・ビロ氏などの五名の宿舎にあてられた新龍宮《しんりゅうぐう》ホテルの前の広場には、朝早くから夜ふけまで、たくさんの群衆があつまって、わいわいさわぎたてていた。一目でもいいから、魚人を見たいという望みなのだ。
彼らは、魚人を見たいために、いろいろなはなやかな飾りものをこしらえ、それをホテルの前へ引いて来て、歓迎の音楽を演奏したり合唱をしたりした。
カビ博士のことは、一躍《いちやく》有名となった。
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