。執念《しゅうねん》ぶかい野郎だ」
「へんだなあ。たしかにぶち殺して、手足も首も、ばらばらにしてしまったはずだが……」
「わたしは、なんだか気味が悪くなって来たわ」
「あの人がいっているとおり、神さまはあの人の方についているようね」
 そんな声が僕の耳にちらちらと、はいった。どうやら相手の中に、軟化《なんか》のしるしが見え始めた。が、安心するのは、まだ早かった。
「こいつは悪魔だ。もっと徹底的に叩きつぶさにゃ駄目だ」
「執念ぶかいやつ。やっつけろ」
「やっつけろ」
 オンドリは気が変になったようになって、僕におどりかかった。暴漢たちが、それに続いて僕へのしかかる。
 僕は息がつまってしまった。
 が、僕は四度五度と、死にかわり生きかわり、彼らの目の前に姿をあらわした。そしてそのたびにまずまっ先にオンドリを見つけて彼の肩を叩くことにした。
 オンドリは、始めの慓悍《ひょうかん》さをだんだんと失ってきて、次第にむずかしい顔付をするようになった。九回目には、彼は大きな恐怖の色をうかべて、死んだようになってしまった。僕は、そのそばへ行って介抱《かいほう》をしてやった。そして、こういった。
「もう分ったでしょう。君たちのやり方が間違っているということを。……それが分ったら、僕の忠告に従って、君たちは平和的に事を解決するために、代表者を数名えらんで海底都市へ派遣したまえ。及ばずながら、僕が仲介をしてあげるから」


   平和使節


 トロ族の暴漢どもは、今や鳴りをしずめた。その指導者のオンドリ先生と来たら、鳴りをしずめる以上にへたばってしまって、僕の足許《あしもと》に長く伸びて、気息《きそく》えんえんである。
「さあ、僕の提案を君たちは採用するか、採用しないか。すぐ決めたまえ」
 僕は彼らに、平和的解決をはかるために、トロ族代表者を決めて海底都市へ派遣するように、そしてその手引は僕がしてあげると申し入れたのだ。こうなっては、彼らは僕の提案を受けとるしかないのだ。
 彼らはオンドリのそばへ集まって低音の早口で、しきりに相談しているようだった。が、遂《つい》に事は決まったと見え、オンドリは大ぜいに身体を抱えあげられて僕の前に来た。
「あなたのおっしゃるとおりにします。われわれは五名の代表者を出します。そしてあなたについて海底都市へ行かせます。どうかよろしくお願いしたい。……なお
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