りになっているように見えるのに、僕たちがそっちへ歩みよるに従って、その穴がしずかに後退していくことだった。つまり、前方において行き停りになっている浅い穴が、僕らがそっちへ一歩進めば、穴の底は一歩奥深くなり、三歩進めば三歩奥深くなり、どこまで行っても穴の奥に突き当たらないのであった。
「へんだなあ。自然に穴があいて、通り穴が出来るなんて……」
僕は思わず感嘆《かんたん》の声をもらした。
すると僕の前にいたオンドリが僕の方へふりかえった。
「はははは。自然に穴があくわけではない。この器械で穴をあけていくんだよ。君たち人類は、こんな道具を持っていないと見えるね」
オンドリはそういって、手に持っていた大きな探検電灯のようなものを見せた。それはもちろん電灯ではなかった。彼がそれをすぐ横の壁にさしつけると、壁はとろとろととろけるようになくなって、奥行十メートルばかりの、われわれが立って歩けるぐらいのトンネルがあいたではないか。僕は、トロ族のおそるべき技術力について知り、背中がぞっとした。
僕たちは前進した。
約二十分ばかり歩いたとき、オンドリは僕の方をふりかえった。
「いよいよ君に見せたい場所へ来た。われわれの善良なる同胞の住居が、君たちの海底都市工場のために、いかにひどく破壊せられているか、さあ、こっちを見たまえ」
オンドリは、僕をひっぱって、急ぎ足になった。――僕はいかなる光景を見たろうか。
険悪化《けんあくか》
魚人オンドリの声に、僕は彼の指す方を眺《なが》めた。
ああ、僕はその光景を一目見たとき、そっちへ目を向けたことを後悔《こうかい》した。それは悲惨《ひさん》きわまる光景だった。洞窟の中に、大きな崖《がけ》くずれが起こり、その土砂の下から数百数千の魚人が血だらけになって救《たす》けをもとめているのであった。そして天井から、にゅうと顔を出しているのは、まぎれもなく海底都市のボーリングの末端《まったん》をなす鋼鉄棒《こうてつぼう》だった。
「とつぜんあのとおり、大震動と共に、あのような金属棒がわれらの居住区を突きさしたのだ」
オンドリは叩きつけるような口調でいった。
「そこで天井はくずれる。たちまちわれらの同胞はあのとおり生き埋めになる。皮膚は破れ、肉はさけ、死する者数知れず、その救出《すくいだ》しにわれらは総力をあげているが、このとおりま
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