なんだ。第一、そんなことは、わが住民たちが同意しないにきまっている」
と、博士は首を左右に振った。
「でも、そうしなければ陰謀者はいよいよのさばって、君たちへ暴力をほしいままにふりかけるじゃないか」
「わが海底都市住民は、武力抗争《ぶりょくこうそう》ということを非常に嫌っているんだ。だから武力をもって彼奴を追払うという手段は、すくなくとも表面からいったのでは、住民たちの同意を得ることはむずかしい」
「だがおとなしくしていれば、君たちは彼等にくわれてしまうばかりだ。だから防衛のために武力を用いることは――」
「君はいけないよ、そういうことを、この国へ来ていうから。そういうことは、この国では全く通用しないんだから」
「そんなに武力行使ということを嫌っているのかい。それならそれでいいとして、では平和的に外交手段でいってはどうだ」
「それでもだめ。相手は全面的に暴力をもってわれわれに迫っている。外交手段を用いる余地はないのだ。しかも困ったことに、いかなる点から考えても、彼奴らはわれわれよりもずっと知能のすぐれた生物らしい。だから正面からぶつかれば、こちらが負けることはほとんど間違いないと思うんだ。それに、彼奴らは姿さえ見せない……」
博士はため息をついた。が、そのとき彼は僕の腕をぐっと握ると、あえぐようにいった。
「実は、君に頼みたいというのは君が単身《たんしん》で、彼奴《あいつ》に面会をしてくれることだ」
「それは危険だ」
「そうだ。君は多分彼らの手にかかって殺されるだろう」
「ええッ!」
不死《ふし》の真理《しんり》
僕は、このときほど腹の立ったことはなかった。
(このカビ博士――いやこの辻ヶ谷の野郎め!)
と、思わず拳《こぶし》が彼の方へうなりを生じて動きだした。――僕を危険きわまりない謎の陰謀者のところへ使者にやり、そしてそこで僕が殺されるであろうことを知っていながら、僕を行かせようというカビ博士の薄情《はくじょう》さ。
「あ、ちょっと待て。怒るのはもっとものようだが、ちょっと話をきいてくれ」
博士は両手をあげて僕を制した。
メバル号は、とたんにぐっと傾《かたむ》いた。博士はまたあわててハンドルをとりながら、
「君、おちつかにゃいかんよ。君は今、僕のことばにびっくりしたようだが、おどろくことは何もないんだ。君は殺されても一向《いっこう》さし
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