のは」
「知らないのか、それを。君の頭はまだまだ十分に恢復《かいふく》していないらしいな。ミドリモというのは君の名前なんだ」
「じょうだんじゃないよ。僕にはちゃんと、本間良太《ほんまりょうた》という名がある」
「ふふん。それがミドリモと改名されたんだよ。ちょうどわしが、辻ヶ谷からカビに改名したようにね」
博士はふしぎなことをいった。
「本当かい。なぜそんな改名をしたのか」
「名前というものは昔から親がつけたもんだ。しかしそれはやめて名前は自分でつけることに、法令が改められた。それと同時に姓もやめることになり、今は誰でも名前だけになったんだ」
「なぜそんなことをしたんだろう」
「わしは知らない。法令だ」
法令で、そんなことをきめなければならないわけは、どこにあったのであろうか。僕はそんな問題についてカビ博士と永く問答する興味はなかった。しかしそのとき得た印象として、この理想的自由都市らしいこの町にも、なにかもうカビのようなものが生えかかっているらしく直感した。果してこの直感は当っていたかどうか。
それはさておき、カビ博士が学友辻ヶ谷と同一人だと分った今、僕はこれまでに感じていた窮屈《きゅうくつ》さを一ぺんに肩からおろすことができた。それと共に、彼にいろいろと問いただしたいことが山のようにあるのを感じ、それをどこから彼に問いただすべきかに迷ったほどである。
「とにかくミドリモ君。君は興奮しないように極力《きょくりょく》気をつけたまえ。君がこの際、興奮して、頭がカーッとしてしまうと、えらいことになってしまうからね。昔の言葉でいうなら、それは君が自爆《じばく》するようなものだ。だから気をつけてそれを避《さ》けたまえ。極力、興奮しないようにしたまえ。聞きたいこともあろうが、それは後日ゆっくりしたときに聞き出すことにすればいい」
と、カビ博士は一生けんめいに僕をなだめるのであった。
「それよりも目下の大問題は、さっきちょっと話したが、われわれの海底都市が外部から何者かによって狙《ねら》われているらしいことだ。彼奴《あいつ》は、われわれの海底都市を破壊し、この平和人《へいわじん》をみな殺しにしようと思っているのではないか。果《はた》してしからば、彼奴とは一たい何者だ。――それを早いところ突きとめてしまわねばならぬ。そこで君の力を借りたいのだ」
「それは容易《ようい》ならぬ
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