のかね」
「なにを寝ぼけてやがる。――どじを踏んでみろ。皆から洟《はな》もひっかけられねえぜ。お前の腕は確かだろうね。焼きが廻っているんじゃないか」
「憚《はばか》りながら……」と貫一は、とうとう座り直して真剣な目付になった。
「憚りながら的矢の貫一、胆玉がよわくなったの、腕があまくなったのといわれちゃあ――」
「そんならいい。今夜から仕事に行ってくれ。お前ひとりでやるんだぜ、五体揃えば、五百万両の仕事だ」
「五百万両。それなら仕事の返り初日にはちょうど手頃のものだ。一体それはどこへ行って貰ってくるんで……」
「本当にやる気があるのかい。臆気《おじけ》をふるっているんなら、『まあ見合わせましょう』というがいいぜ。今が最後のチャンスだ」
烏啼は念入りに義弟に油をかける、そういわれては貫一たるもの、何がどうあっても兄貴からいいつけられた仕事をやってみせないでは済まなくなった。
「兄貴、今からでも出かけますぜ」
と、貫一は胸へ手を突込むと、愛用のピストルをつかみ出して、畳の上へ置いた。
烏啼は、その方をちょっと睨《にら》んだだけで素知らぬ顔で話をすすめる。
「貫一。この仕事はお寺さまから仏像を盗みだすんだ」
「えっ、仏像を……」
「仏像といっても、けちなものじゃない。いずれ準国宝級のものだ。こういう風変りな仕事をおっ始めたわけは、近頃の坊主どもの中には悪ごすい奴がだんだん殖えて来やがって、生活難だの復興難だのに藉口《しゃこう》して、仏像を売払う輩《やから》が多くなった。まさか本尊さまを売飛ばすわけには行かないが、それと並べてある割合立派な仏像を、いい値で売払いやがるんだ。途方もねえ坊主どもだ。そこでおれの調べたところによると、これからいう五体の仏像はとりわけ尊いものばかり、それを売り飛ばしにかかっている坊主の先廻りをして、お前にこっちへ搬《はこ》んで貰うんだ。どじを踏むなよ、いいか」
「へえ。それは又変った仕事だねえ」
「五つの寺の所在と、さらって来る仏像の名前とスケッチは、この紙に書いてある。さあ、これをそっちへ渡しとくぜ」
烏啼は懐中から書付を出して、貫一の方へ差出した。お志万が橋渡しをして、貫一へ渡してやった。
「ほほう。第一は目黒《めぐろ》の応法寺《おうほうじ》。酒買い観世音菩薩木像一体《かんぜおんぼさつもくぞういったい》。第二は品川《しながわ》の琥珀寺《
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