烏啼は家内へ三日間の報酬として額面六千円の小切手を寄越しましたよ。家内はほくほくしています。――それにしても烏啼がそんなところで家内を活用していることをちっともご存じなかったんですかね」
 探偵猫々は電話を切ると、憂鬱いっぱいの顔になって浴室を出た。つまらん真似を始めやがった烏啼天駆だ。いくら報酬を払おうが代償を寄越そうが、賊は賊ではないか。彼奴と来たら……「待てよ」と彼は考えた、書斎へ入ってから……。
「彼奴烏啼は、この家を三日間思うままに使用したじゃないか。すると彼奴はかねての広言に従って、私に対して使用料を払うべきだ。……どこにその使用料を置いていっただろうか」
 猫々はそれから家中を探し廻った。だが賊からの支払物を発見することが出来なかった。そこで彼は烏啼に対し請求書を出そうと考えた。彼は大机に向かい、書簡箋《しょかんせん》の入っている引出しを明けた。と、途端に中からぱっと飛び出して来た青い紐のようなものがあった。彼はきゃっと叫んで椅子と共に後へひっくりかえった。
 一匹の毒蛇が悠々と絨毯《じゅうたん》の上を匐《は》っていた。その毒蛇の首には紙片が結びつけてあって、それには次の
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