猫々と、どっちの言分が正しいのか、今はここにちゃんと割切ってみせて答を出す必要はなかろう。それよりもここに一筆しておかなければならないことは、かれ烏啼天駆がこの頃何を悟ったものか「健全なる社会経済を維持するためには、何人といえども、ものの代金、仕事に対する報酬を払わなければならない。もしそれを怠るような者があれば、その者は真人間《まにんげん》ではない」といいだしたことである。
そして彼はこの語に続いて小さな声で、次のような文句を附加えたものだ。「……たとい電車の中の掏摸《すり》といえども、乗客から蟇口《がまぐち》を掏《す》りとったときは、その代償として相手のポケットへチョコレート等をねじこんでおくべきだ。そういう仁義《じんぎ》に欠ける者は、猫畜生に劣る」
犬畜生というべきところを猫畜生といったのを勘考すると、烏啼天駆は袋猫々を歯牙にもかけずといいながら、実はやっぱり常日頃、心の隅に探偵猫々の姿を貼りつけて、多少気にしているものと見える。
とにかく、彼天駆がそういう風に菩提心《ぼだいしん》を起したことは、逸早《いちはや》く機関誌「ザ・プロシーデングス・オブ・ザ・インスチチュート・オ
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