といくらも時間が無いぞ。さア出発だ」
 弦吾は腰をあげた。
「おっと待ちな、冷《つめた》いながら酒がある。別れの盃《さかずき》と行こう」
 同志帆立は、押入の隅から壜詰を取出した。汚れたコップに、黄色い酒がなみなみとつがれた。
 カチャリ、カチャリ。
「地獄で会おうぜ」
「世話になったな」


     4


 部屋を出ようとするときだった。
 ブ、ブ、ブブー。
 卓子《テーブル》の裏に取付けたブザーが鳴った。
「ほい。XB4が呼んでいるッ」
 弦吾は室内に引返した。壁をポンと開くと嵌《は》めこんだような超短波《ちょうたんぱ》の電話機があった。
「QX30[#「30」は縦中横]だ」
「こっちは、XB4だ」と電話機の彼方《かなた》で小さい声がした「報告があったぞ、いよいよ動員指令が下《くだ》ったそうだな」
「ウン」
「ところで注意を一つ餞別《はなむけ》にする」
「ほほう。ありがとう」
「あの間諜座ね『魚眼《ぎょがん》レンズ』のついた撮影機で、観客一同の顔つきが何時《いつ》でも自由自在にとれるんだそうだ。ぬかりはあるまいが、顔色を変えたり、変にキョロキョロしちゃいかん。皆の笑うところでは
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