》をしねえとは何でえ。こッこの棒くい野郎奴《やろうめ》」
「……」
「だッ黙ってるな。いよいよもう、勘弁《かんべん》ならねえ、こッ此《こ》の野郎ッ」
どおーンと突き当ったのはいいが拳固《げんこ》を振《ふ》り下《お》ろすところを、ヒラリと転《か》わされて、
「ぎゃーッ」
と叫ぶと、酔漢《すいかん》は舗道《ほどう》の上に、長くのめった。
弦吾と同志帆立とは、酔漢の頭を飛び越えると足早《あしばや》に猿江《さるえ》の交叉点《こうさてん》の方へ逃げた。
細い横丁を二三度あちこちへ折れて、飛びこんだのはアパートメントとは名ばかりの安宿《やすやど》の、その奥まった一室――彼等の秘密の隠《かく》れ家《が》!
「どうだった?」入口の扉《ドア》にガチャリと鍵をかけると、帆立が云った。
「ウン、これだ」
弦吾は掌《てのひら》を開くと、小形のたばこや[#「たばこや」に傍点]マッチを示した。酔払いから素早く手渡された秘密のマッチ箱だった。小指の尖《さき》で、中身をポンと落しメリメリと外箱《そとばこ》を壊《こわ》して裏をひっくりかえすと、弦吾はポケットから薬壜《くすりびん》を出し、真黄《まっき》な液体を
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