うにして戴《いただ》きたいと、お願いして置く。さて――


     2


 霧の深い夕方だった。
 秘密警備隊員の笹枝弦吾《ささえだげんご》は、定《さだ》められた時刻が来たので、同志の帆立介次《ほたてかいじ》と肩を並《なら》べてS公園の脇《わき》をブラリブラリと歩き始めていた。もう冬と名のつく月に入ったのだったが、今夜はそう寒くもなかった。しかしこう霧が降りていては、連絡をとるのに稍《やや》困難を覚《おぼ》えた。その連絡員というのがうまく自分達を探しあてて呉《く》れればいいが……。
「ウーイ、こらさのさッ――てんだ」
 向うから酔払《よっぱら》いの声が聞える。顔も姿もまだ見えないが……。
 弦吾は肘《ひじ》でチョイと同志帆立の脇腹《わきばら》を突《つつ》いた。
 ぬからず帆立が、
「ピ、ピーイ、ピッ……」
 とヴァレンシアのメロディーを口笛で吹き始める。
 ヒョロヒョロと、向うから人影が現れた。
 弦吾はツと帽子を被《かぶ》り直《なお》した。
 どおーン。
 酔払いが突き当った。
「ヤイ、ヤイ、ヤイッ」酔払いが呶鳴《どな》った。
「つッ突《つ》き当《あた》りやがって、挨拶《あいさつ
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