に属する向島にあった。そして同じく広々とした焼跡に立つバラックであって、どっちを見渡しても真暗なところであった。
ミチミはバラックの窓の灯を指して、彼を二十間ほど手前で待っているように云った。そして彼女は、スタスタとバラックに近づき、やがて戸を開いて内側に姿は見えなくなった。杜はポケットの底を探って一本の煙草を口に咥《くわ》えた。
ミチミはなかなか出て来なかった。
杜は、さっき道々で彼女の云ったことを考えていた。――有坂青年に奪われている彼女の秘密物品を取り返すのを手伝って呉れ、それはバラックの中にある古井戸の中に、大きな石に結びつけて沈めてあるから、手伝って綱を引張って呉れ――というのだ。一体どんな秘密物品を彼女は有坂に奪われているのだろう。ミチミが持っていそうな秘密物品とは、どんなものが有り得るだろうかと、昔の生活をいろいろと思い浮べてみた。しかしどうも心あたりがなかった。ラブレーターであろうか。日記帳であろうか。それとも或る種の誓詞《せいし》であろうか。写真の乾板《かんぱん》でもあろうか。でも以前にはおよそそんなものを、彼女が持っている様子はなかった。もしそんなものが有ると
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