。林檎《りんご》もあるわ。缶詰に、ハミガキに、それから慰問袋もあんたの分とあたしの分と二つあるわよ。――さあ起きなさいよォ」
お千はすっかり機嫌を直していた。
配給品が時の氏神《うじがみ》であった。二人はそれを並べて幾度も手にとりあげては、顔を見合わせて笑った。
「昨日のことは――あのことは、あんた忘れてネ。あたし、どうかしていたのよ。いくらでも謝るわ」
お千はいい潮時《しおどき》を外さず、愧《は》ずかしそうに素直に謝った。
「うん、なァに、なんでもないさ。――」
杜はいままでに一度も懸けたことのない優しい言葉を云った。その優しい言葉は、お千に対してよりも、自分自身の侘《わび》しい心を打った。彼はなんだか熱いものが眼の奥から湧いてくるのを、グッと嚥《の》みこんだ。
8
昨日に続いて、杜とお千とは、また連れだって拾い物に出かけた。
ちょっとした煮物の出来る竈《かまど》も出来たし、ミカン函を改造して机兼チャブ台も作った。裏手には、お千のために、往来からは見えないように眼かくしをした軽便厠《けいべんがわや》をこしらえた。入口には、杜の名をボール函の真に書いて表札
前へ
次へ
全93ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング