といって、うしろを指した。
「えッ、アー女学生が――」
瞬間、彼の目の前は急にくらくなった。
(ミチミよ、なぜ僕は一直線におまえのところへ帰ってこなかったんだろう!)
彼は心の中で、ミチミの霊にわび言をくりかえした。
杜はそこで勇猛心をふるい起すのに骨を折った。どうして見ないですむわけのものではなかった。彼はいくたびか躊躇をした末に、とうとう思いきって、交番の中をこわごわ覗きこんだ。
黒い飾りのある靴、焼け焦げになった袴、ニュッと伸ばした黄色い腕、生きているようにクワッと開いている眼――だが、なんという幸いだろう。その惨死している女学生はミチミではなかった。
「ああ、よかった。――」
彼は両手を空の方へウンとつきだして、その言葉をいくどもくりかえした。
だが、愛の巣のあったと思うところには、赤ちゃけた焼灰ばかりがあって、まだ冷めきらぬほとぼりが、無性《むしょう》に彼の心をかき乱した。
そのなかに、もしやミチミの骨が――と思って、焼けた鉄棒のさきで、そこらを掻きまわしてみたが、人骨らしいものは出てこなかった。ミチミは何処かへ、難をさけたのであろう。
立て札もなければ、あ
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