必ず頭をうちつけるトタン板であった。
 彼は思いがけなく、畳の上にゴロリと横になることができた。但し畳の上といっても、狭い三尺の方に身体を横たえるので、頭と脚とが外にはみ出すのであった。それでも女はたいへん喜んで、すぐ横になった。
 ところが、避難民が、あとからあとへと入ってくるのであった。だから始めは離れていたお千との距離が、前後からだんだんと押しつめられてきた。そして遂に、お千の身体とピッタリくっついてしまった。
 それでもまだ後から避難民が入ってきた。
「さあ、皆さん、お互《たがい》さまです。仰向きになって寝ないで、身体を横にして寝て下さい。一人でも余計に寝てもらいたいですから」
 窮屈な号令が掛った。そして係員らしいのが、皆の寝像《ねぞう》を調べに入ってきた。やむを得ず、畳の上の人たちは、塩煎餅《しおせんべい》をかえすように、身体を横に立てた。
「もっとピッタリ寄って下さい。夜露にぬれる人のことを思って、隙をつくらないようにして下さいよ」
 お千は遠慮して、向うを向いていたが、もうたまりかねて闇の中に寝がえりを打ち、杜の方に向き直った。そして彼女は、乳房をさがし求める幼児のよう
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