新米の、しかも理科の先生になんか監督されることをたいへん不平に思った。でも練習が始まってみると、さすがに猛《た》けき文学少女団も、ライオンの前の兎のように温和《おとな》しくなってしまった。そのわけは、杜先生こそ、理学部出とはいうものの、学生時代には校内の演劇研究会や脚本朗読会のメムバーとして活躍した人であったから、その素人ばなれのした実力がものをいって、たちまち小生意気な生徒たちの口を黙らせてしまったのである。
空虚《から》の棺桶は、ローマの国会議事堂前へなぞらえた壇の下に、据《す》えられていたが、これはふたたび女生徒に担がれて講堂入口の方へ搬《はこ》ばれた。
この劇では、黒布《くろぬの》で蔽われたシーザーの棺桶は、講堂の入口から、壇の下まで搬ばれる、そこにはアントニオ役の前田マサ子が立っていて、そこで棺の蔽布《おおい》が除かれ、中からシーザーの死骸があらわれる、それを前にして有名なるアントニオの熱弁が始まるという順序になっていた。
ところが、そのアントニオは、空虚《から》の棺桶を前にしては、一向力も感じも出てこないため、どうしても熱弁がふるえないという苦情を申立てた。――
講
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