あいた入口の方へふりかえった。
「どう? うまくなったかい」
「いいえ、先生。とても駄目ですわ。――棺桶の蔽《おお》いをとるところで、すっかり力がぬけちまいますのよ」
「それは困ったネ。――いっそ誰か棺桶の中に入っているといいんだがネ……」
少女たちは開きかけた唇をグッと結んで、クリクリした眼で、たがいの顔を見合った。あら、いやーだ。
「先生ッ――」
叫んだのは小山《こやま》ミチミだ。杜はかねてその生徒に|眩しい乙女《シャイニング・ミミー》という名を、ひそかにつけてあった。
「なんだい、小山」
「先生、あたしが棺の中に入りますわ」
「ナニ君が……。それは――」
よした方がいい――と云おうとして杜はそれが多勢の生徒の前であることに気づき、出かかった言葉をグッとのどの奥に嚥《の》みこんだ。
「――じゃ、小山に入ってもらうか」
英語劇「ジュリアス・シーザー」――それが近づく学芸会に、女学部三年が出すプログラムだった。杜先生は、この女学校に赴任して間もない若い理学士だったが、このクラスを受持として預けられたので、やむを得ずその演出にあたらねばならなかった。
はじめ女生徒たちは、こんな
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