望の闇のなかに、ほのかな光り物を見つけた。僕は眼を皿のように見張った。明礬《みょうばん》をとかしたように、僕の頭脳は急にハッキリ滲《にじ》んできた。そうだ、まだミチミを救いだせるかもしれないチャンスが残っていたのだ。僕はいま、シャーロック・ホームズ以上の名探偵にならねばならない。犯行の跡には、必ず残されたる証拠あり。さればその証拠だに見落さず、これを辿《たど》りて、正しき源《みなもと》を極《きわ》むるなれば、やわかミチミを取戻し得ざらん――」
「もういいよ。そのくらいで……」
「僕は鬼神《きじん》のような冷徹さでもって、ミチミの身体を嚥《の》んだ空虚《から》の棺桶のなかを点検した。そのとき両眼に、灼《や》けつくようにうつったのは、棺桶の底に、ポツンと一と雫《しずく》、溜っている凝血《ぎょうけつ》だった。――おかしいわネ。そのころあたりはもうすっかり暗くなっていたんでしょう。それに棺桶の底についていた小さい血の雫が分るなんて、あなたはまるで猫のような眼を持っていたのネ」
「棺桶の板は白い。血は黒い。だから見えたのに不思議はなかろう。――だが、もう頼むから、その話はよしておくれ。どうして君
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