夜貴郎がやってくれたと同じようにお千さんの始末をするのを手伝ってくれたのよ。もちろん、すべての計画と命令とは、あたし一人がやったんだわ」
「人を殺してどうするんだ」
「そんなことはよく分っているじゃないの。あたしはただ貴郎が欲しいばっかりよ。だからそれを邪魔する者を片づけたばかりなんだわ」
杜は大きくブルブルと身慄いした。
「――ああ僕は、この手でとうとう人を殺してしまったのだ。ああ、もっともっと前に気がつかなけりゃならなかったんだ。先刻《さっき》か、いやいや。もっと前だ。お千が殺された時か。いやいやもっともっと前だ。そうだ震災になる前に考えて決行しなきゃならなかったんだ。ああもう遅い。とりかえしがつかない」
そういって、杜はわれとわが頭を握《にぎ》り拳《こぶし》でもってゴツンゴツンと殴《なぐ》った。その痛々しい響は、物云いたげな有坂の下垂《かすい》死体の前に、いつまでも続いていた。
13[#「13」は縦中横]
杜はミチミを連れて、久方ぶりで郷里に帰った。今はもう誰に憚《はばか》るところもなく、一軒の家を借り同棲することとなった。いや憚るところもなくといっても、彼等二人は晴れて同棲を始めたわけではなく、倶《とも》に追わるる身の、やがて必然的に放れ離れになる日を覚悟して、僅かに残る幾日かの生への執着《しゅうちゃく》を能うるかぎり貪《むさぼ》りつくしたいと考えたからだった。
その切迫した新生活の展開いくばくもならぬうちに、杜はミチミについていろいろの愕くべき事実を知った。その一つは彼女が、いつか羞《はじ》らいをもって彼に告げたごとく、彼女がこのたび杜と同棲する以前に於ては、ミチミの身体が全く純潔を保たれていたという意外なる事実であった。ミチミの信念と勝気は十二分に証明せられた。
もう一つは、彼女の犯行がいつも一定の条件のもとに突発したということだった。それは彼女の生理的な周期的変調が犯行を刺戟するのであった。杜はそれを彼女の口から聞いて、過去に於けるいろいろな事象を思い出して、なるほどと肯《うなず》いたのであった。お千殺しの現場に落ちていた血痕も、これを顕微鏡下に調べてみれば、そこに特徴ある粘膜の小片が発見されたに違いなかったのである。さもなければ分析試験を俟《ま》って多量のグリコーゲンを検出することができたであろう。いずれにしても、それは生
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