原の真ン中で、自分はいま何をしようとしているのだろう。なんだか非常に恐ろしいことを手伝っているような気持がして、彼は思わずブルブルと身慄《みぶる》いした。
 途端に綱を握っている手に、ピーンと手応えがあった。ミチミがバラックの中で綱を引いて合図をしたのであった。
「ウン、今だナ――」
 彼は綱をグッと握りしめると、後を向いてトットと駆けだした。大地に躓《つまず》いて倒れるかもしれないと思ったほど、渾身《こんしん》の力を籠《こ》めてウウンと引張った。
 ドーンと鈍いそして力づよい手応えが両腕を痺《しび》れさせた。とうとう沢庵石が井戸から上ってきたのであろうか。彼は綱端を両手に掴み、身体を弓のように反《そ》らせて、バラックの中に潜む大きな力に対抗していた。でもなんという奇妙な手応えだろう。どうも沢庵石を引張りあげたにしては、いやに反動がありすぎた。なんだか沢庵石が生き物に化けて綱の端でピンピン跳ねまわっているようであった。
 ミチミが杜の方に駆けだしてきたのは、それから十分ほど経った後のことだった。
「もう大丈夫よ。その綱の端を、貴郎《あなた》の前にある切株に結んで頂戴な」
 ミチミは、しっかりした調子で、それを命じた。
 杜はミチミに手伝わせて、そのようにした。
「さあそれでいいわ。――ではバラックの中にあるあたし[#「あたし」に傍点]の必要なものを片づけましょう。一緒に行って、片づけてくれない」
「ウン、行ってもいいかしら」
「もう大丈夫よ。有坂は、もうなんにも邪魔をしないわよ」
 杜はミチミの言葉を深く考えもせず、彼女について、恐る恐るバラックの入口をくぐった。バラックの中には、暗い電灯が一つ天井から下っていた。彼は極めて自然に、自分がピンと引張った綱の先を眼でもって追っていった。その綱は上向きになって、梁《はり》の方に伸びていた。その梁の向うに、彼は全然予期しなかったものを見た。それは紛れもなく、宙にぶら下った男の全身だった。杜はそれが何者であるか、そして何をしているのかを知った瞬間に、愕きのあまりヘタヘタと土間に膝をついた。
「ウム、これは有坂青年だ。これはどういうわけだッ。――」
 ミチミは、ジャンヌ・ダルクのように颯爽《さっそう》として、杜の前に突立った。そして氷のように冷徹な声でいった。
「これがあたしの自由を奪っていたものよ。この有坂さんは、この前は今
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