、僕は帰れません。そもそも赤見沢博士の重大性なるものは……」
「粗茶《そちゃ》ですが、どうぞ」
少女の給仕が茶を入れて持って来て、臼井の前に置き課長の大湯呑にはげんのしょうこをつぎ足して来た、課長は客に粗茶をどうぞと薦《すす》めたわけだ。
「ああ結構です」と臼井は香《か》のない茶に咽喉《のど》を湿《しめ》し、「早く分って頂くために、そうですなあ、ああそうだ、仔猫《こねこ》のお話をしましょう」
「仔猫?」
「そうです。猫の子ですなあ」
課長の前の既決書類函から書類を取出していた少女の給仕は、猫の子問答のおかしさに耐《た》えられなくなって、書類を抱えると大急ぎで後向きになって、すたすたと戸口の方へ駆出《かけだ》した。
「猫の子がどうしたというんです」
「課長さん。僕が博士を始めて訪問したときに、その部屋に仔猫がいたんです。僕はびっくりして腰を抜かしそうになりました」
「君はよほど猫ぎらいと見える。ははは」
「いや違う。総じて猫というものは僕は大好きなんです。だから普通では猫又《ねこまた》を見ようが腰を抜かす筈がない。だからそのときは愕《おどろ》きましたよ、実に……なぜといってその仔猫が
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